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細胞組織学分野 研究概要

生体に内在する新しいタイプの多能性幹細胞:Muse細胞

私たちの研究室では成人ヒトの間葉系組織に多様な細胞に分化する能力を有する新たなタイプの多能性幹細胞 Multilineage-differentiating Stress Enduring (Muse)細胞を発見しました(Kuroda et al., 2010, PNAS;Wakao et al., 2011, PNAS; Kuroda et al., Nature Protocol, 2013)。
この細胞は

  • 骨髄、皮膚、脂肪などの間葉系組織にメインに存在し、また様々な臓器の結合組織にも内在する。市販の間葉系の培養細胞からも得られ、アクセスしやすい。
  • 1細胞から体中の様々なタイプの細胞に分化可能。自己複製能も有する。
  • そもそも体内に自然に存在する細胞であり、腫瘍化の危険が極めて低い。
  • すでに施行されている骨髄移植 (0.03%)や間葉系幹細胞移植 (~1%)の一部の細胞に相当し、安全性の実績がある。
  • 線維芽細胞と同程度の増殖力を持つ。

などの特徴を有します。

一般に体性幹細胞(組織幹細胞とも言う)は、その幹細胞の存在する組織を構成する細胞群を分化させることの出来る細胞と考えられております。例えば神経幹細胞であれば神経とグリアが、造血幹細胞では血球系の細胞が作られるのがその例です。しかし間葉系幹細胞では骨、軟骨、脂肪などの間葉系細胞の他に、神経(外胚葉)、肝細胞(内胚葉)など胚葉を超えた分化が報告されてきました。このことから間葉系幹細胞には多能性の細胞が内在するのではないかと議論されてきましたが、間葉系幹細胞はもともと均質な細胞によって構成されているわけではなく、複数種の接着性細胞の集団ですので、仮に多能性幹細胞が存在するとして、その実態はどのような細胞なのか、ということが長らく議論となっていました。

当教室では成人ヒトの皮膚や骨髄などの間葉系組織から多能性幹細胞を同定することに成功し、この細胞をMuse細胞と命名しました(Kuroda et al., 2010, PNAS)。Muse細胞は1細胞から3胚葉性の細胞に分化可能で、またストレス耐性能、多能性幹細胞マーカーの発現、自己複製能などを有します。そもそも生体に存在することからも腫瘍性増殖を示さないという大きな利点があります。間葉系幹細胞と多能性幹細胞の両方の特徴を備えており、間葉系マーカーCD105とヒトES細胞マーカーSSEA-3の二重陽性細胞として組織や間葉系の培養細胞から単離可能です。

多能性を備えながら腫瘍性が無いので再生医療への応用が期待されているわけですが、Muse細胞の持つ最大の利点は

  • 誘導もせずそのまま血中に投与するだけで組織修復をもたらす。

ということです。すなわち

  • 腫瘍を作らないという安全面だけでなく、分化誘導もせずにそのまま生体内に投与するだけで組織修復細胞として働く簡便性にある。

ということです。例えばES細胞やiPS細胞を再生医療に用いる場合には、目的とする細胞に分化誘導し、さらに腫瘍化の危険を持つ未分化な細胞を除去するという2つの要件が前提となります。しかしMuse細胞の場合、採取してきて体内に投与すれば障害部位を認識し、そこに生着して組織に応じた細胞に自発的に分化します。ですからCell Processing Center (CPC)での分化誘導などの操作を必ずしも前提とはしません。さらにMuse細胞の母集団となる間葉系幹細胞は現在世界中で数多くの臨床試験が展開されており安全性が担保されています。従ってMuse細胞以外の間葉系細胞が残存したとしても腫瘍化の危険は極めて低く、再生医療への応用が現実的であると考えられます。

現在、我々の研究室では

  • Muse細胞の発生学的な起源
  • 生体内での機能とMuse細胞動態の制御因子の開発
  • microRNA発現系の制御
  • Muse細胞の増殖能の制御因子
  • 組織間Muse細胞の比較検討

などの基礎的研究だけでなく、心筋梗塞、肝疾患、脳梗塞、神経損傷、糖尿病、感覚器障害などの多様な疾患をターゲットとした再生医療への応用に向けて国内外で研究を展開しております。

Muse細胞由来のクラスター/ES細胞由来の胚葉体
研究に関する詳細は下記までお問合せください。
〒980-8575 仙台市青葉区星陵町2-1
東北大学大学院医学系研究科細胞組織学分野
教授 出澤真理
FAX:022-717-8030
Eメール:mdezawa*med.tohoku.ac.jp(メールアドレスは「*」を「@」に変換してください)
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